World & Story
動物たちが住んでいる世界のご紹介と、ちょっとしたお話を載せています。
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「ハロウィンのお話」 前編
 大きな木々が、おだやかに葉っぱを躍らせていました。
 動物村は、今日も良いお天気です。

 いつものように、キリコは村中を見て回っていました。
 キリコは動物村の村長さんです。『背が一番高いので、村のすべてが見渡せるから』という理由で、子供ながらに、動物村の村長さんに大抜擢されてから、一体どれくらい経ったでしょうか?
 キリコは、責任ある立場に立てたことが嬉しくて、村長さんのお仕事を一生懸命していました。
 村の見回りは村長さんの役割のひとつで、キリコが毎日欠かさず行っていることなのです。
「今日も特に変わらないっキね」
 いつもどおりの穏やかな光景に安心すると、ごろんと横になって秋の空を眺めました。
 動物村にある、大きな大きな木々よりも、ずっとずっと高い青空に、うろこ雲の大群が気持ちよさそうに泳いでいます。
 いつの間にか、心地よいそよ風さんたちが、キリコの周りでお話し始めました。
 彼らはうわさ話が大好きなのです。やれ、あの町では何々が流行っているだとか、誰々がどうだとか、夢中でお話しています。
 キリコは横になりながら、しばらく黙ってそよ風さんたちのお話を聞いていましたが、その内、キリコにとって、とても興味深い話になりました。

 そう、『異世界』のお話です。
『異世界』とは、動物村がある動物の森の、そのまた外にある不思議の森や、その不思議の森を越えたところにあるという、ガラスの森をも越えた所にあるらしい、どこか遠くの知らない世界のことです。
 そこには、キリコたちとは違う動物が住んでいるらしいと、最近動物たちの間で、もっぱらのウワサになっていました。
「『異世界』って、本当にあるっキかな?」
 キリコをはじめ、動物村に住む動物たちも、『異世界』についてたくさん話してみたり考えてみたりしましたが、いまだに分からずじまいです。
 しかし、自分たちが知らないものを考えるということは、とても楽しいことでした。
 そよ風さんたちも、『異世界』のうわさ話が大好きです。
「それでね、その世界には『ハロウィン』ってお祭りがあるらしいのよ」
 そう最初に言ったのは、つい最近、この動物村にやってきたそよ風さんでした。
「『ハロウィン?』聞いたことがないな」
 秋風さんが言いました。キリコも聞きなれない言葉に首を傾げました。全く知らないお話です。
「あのね、私も良く分かんないんだけどね」
 そよ風さんは、ハロウィンについて知っている限りのことをみんなに話して聞かせました。

「とにかくその日は、かぼちゃのランタンを作ったり焚き火をしたりするんだって。あと、こわ~いお化けやかぼちゃなんかに変装してね、『トリック・オア・トリート(Trick or treat)』といって家を回ると、なんとお菓子がもらえるらしいわ」
「トリック……なんだって?」
 秋風さんが尋ねます。
「『トリック・オア・トリート』よ。それを言われたら『ハッピーハロウィン!』って言ってね、お菓子を渡すらしいわ」
 しかしそよ風さんは、なぜそのお祭りをするのかよく分かりませんでした。
 なぜならば、ここは動物村。『異世界』の風習や聞きなれない言葉など、雲の上のお話なのです。
 キリコも、どんなお祭りなのか、聞いただけでは良く分かりませんでしたが、ただひとつだけハッキリ分かったことがありました。
 どうも、その日はお菓子がもらえるらしいということです。
『お菓子』
 キリコはその魅力的な言葉のとりこになりました。
 お菓子がもらえる……そんな素敵なことってあるでしょうか?

「そうだ、動物村でも『ハロウィン』ってお祭りをやろうっキ!」
 キリコは思い立ってそういいました。
 いきなりの提案に、そよ風さんたちは驚きましたが、いいアイデアだとも思いました。なぜなら、意味は分からない『異世界』のお祭りではありますが、とても楽しそうだからでした。彼らは楽しいことやわくわくすることが大好きなのです。
「それは楽しいお話ね」
「キイちゃんはアイデアをだすのが得意だからね」
「いいアイデアだと思うよ」
 そよ風さんたちは、口々にキリコをほめました。キリコはなんだかとても嬉しくなって、早速この素敵なお話を、動物村のみんなに聞かせてやりたくなりました。
「ありがとうっキ! 早速みんなに話してくるっキ!」
 そうお礼を言うと、一目散に駆けて行きました。
 そよ風さんたちはキリコを見送ると、早速、面白そうなことが起こりそうだと村中に知らせに、思い思いの方向へ吹き去っていくのでした。